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1日10分でえがじょうずにかけるほん |
1日10分でえがじょうずにかけるほん 3さい~6さい対象 秋山風三郎 著 講談社
アメリカ時代、微細運動に難ありと指摘されたあきのすけ。 帰国後、公文式の幼児ドリルで運筆や文字の練習を始めたものの、お絵かきはなかなか殴り書きの域を出なかった。 そんなとき書店の店頭で目にして、「これぞ自閉症児のために書かれたような本!」と購入したのがこれ。
親は一日1ページずつゆっくり進めるつもりだったのだが、気がつくと自分で本を開いて食い入るように見入っていた。 毎日何度も、最初から最後まで、説明文を読み、指でなぞり書きし。 半年も経ったころには、第三者が見ても動物と解るような絵を描くようになっていた。
今ではお手本を見ないでも描けるようになって、すっかり用済みになった感のあるこの本。 先日、改めて前書きを読んでみたら、この本ができたきっかけについてこんなことが書いてあった。
著者の5才の娘さんが、母の日に幼稚園でお母さんの顔を描いてきた。 その絵が、線一本だった、と。
5才で、線一本。 さらっと書いていらっしゃるが、絵を生業にされている方だ。どれほどショックを受けたことだろう。 そこで、「形の書き方が解らないんだな」と冷静に受け止めて、このような良書を世に送ってくださった著者に、心から敬意を表したい。
「子供が絵が下手で」という悩みを訴える親に、絵がうまい人は往々にして「親が描き方を押し付けてはいけない」「好きなように描かせていればそのうちうまくなる」などと言うが、 まさに「なぜできないのかわからない・わかろうとしない」態度の典型だと思う。
人の顔を書きなさい。と言われた時、 まず顔の輪郭を描いて、目と口に相当するものを書き込めば、とりあえずそれらしく見える。 自閉症児にはまずそれが思いつかないのだろう。 現実の人間の顔は複雑だ。 輪郭には微妙な凸凹があるし、 髪の毛・眉毛・まつげとたくさん毛が生えているし、 目や口は始終忙しく開いたり閉じたりしているし、 鼻のでっぱった感じはどう表現したらいいのだろう。 顔を表す特徴である、輪郭と目鼻という一番重要な属性を、抽出できないのだから。 あと輪郭は円か三角か四角か、 目や口は点か円か線か、大きさは?長さは? 手を動かし始める前に、解決しておかなければならない疑問がたくさんありすぎる。 このスモールステップなマニュアル本は、あきのすけのそんな疑問をきっと解決してくれたんだろうと思う。
芸術的な絵なんか描けなくてもいい。 自分の想いをシンボライズして表現すること。感動を他者と共有すること。 その手段をひとつ手に入れたあきのすけは、いまのところとても幸せそうだ。
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