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ばす、おしまい。 |
「スクールバスに乗るのは、今日で終わりなんだよ。」 おわりません!と大声で反論しなかったのは、次第に片付いていく家の中の様子に、これから起こることを彼なりに感じ取っているのだろうか。
バス停には先客がいた。77番のバスに乗っていく10才くらいの少女。傍目にもhandicappedとわかる彼女は、やはりどこかの学校でspecial educationを受けているのだろう。今週に入りバスの時間が変わってから毎朝見かけるが、だんだん表情が良くなってきている。学校が楽しいのだろう。先方もこちらに見覚えがあるらしく、ちょろちょろ走り回るあきのすけをニコニコしながら目で追っている。 「あなたもバスを待っているの?」と母親が話しかけてきたのでうなずいた。 この学校区でプリスクールから公立を利用できるのは、障害がある子か低所得の家庭か、いずれにしてもわけありだ。彼女はそれ以上多くを語らず、娘と一緒に“Hokey Pokey”を歌い始めた。こちらの子供なら誰でも知っている、楽しい遊び歌だ。 「あきのすけも、この歌知ってるね。」と話しかけると、彼もそばに寄ってきて「おうた!」と、ぴょんぴょんジャンプし始めた。 ほんの数分だったけど、楽しい、本当に楽しいひと時だった。 やがてそれぞれのバスが来て、手を振って別れた。
でももう彼女らと一緒にバスを待つことはない。
去年の12月、まだ真っ暗な中、寒さに震えながらバスを待っていたっけ。 「いないいないばあ」や「まてまてコチョコチョ」をしたり、帰ってからの予定を話したり、バス停は結構濃密なコミュニケーションのできる場所だった。 昨日のIEPでの「あと一年この学校にいるとしたら」という言葉がふたたび頭の中によみがえってきて、
涙がこぼれた。
あと一年ここにいることができたら、出会えたかもしれない人達。できたかもしれない事。 たくさんの、たくさんの。あきらめなければならないこと。
「子供の環境は、親自身が作るものだよ」 そんな先輩ママさんの言葉を思い出して、涙を拭いて家に入った。 今日は引っ越し屋さんがやってくる日だ。
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